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「ルリエ エイトワン」田尻大智にインタビュー ”京都発の着物シューズ”で、日本の伝統美を再び

<基本情報>
氏名:田尻大智 (Daichi Tajiri)
活動拠点:京都
職業/活動:「ルリエ エイトワン(Relier81)」代表
インスタグラム:@ relier81_kyoto  
関連HP:https://relier81.com/

■More About 田尻大智

2018年より、レディース向けシューズブランド「ルリエ エイトワン(Relier81)」をスタート。京都から発信する同ブランドは、日本の伝統や文化、職人の技術を永く大切に残していきたいという思いから、使われずに眠っている着物や帯を<靴>へと昇華させるアップサイクルな取り組みを行なっている。2020年以降は「ユナイテッド トウキョウ (UNITED TOKYO)」をはじめとする、コラボレーションアイテムの展開も行う。

■子供の頃の夢は何でしたか?

「お金持ちの社長になること」。
実は僕自身、そんなこと夢見た記憶が全く無いのですが(笑)、大人になってから小学校の卒業アルバムを見返していた際に、そう書かれていたのを偶然発見しました。周りがサッカー選手!とか、お菓子屋さん!といった子供らしい夢を書いている中で、当時の僕が何故そう思ったのかは今でも疑問でなんですけどね。

ただ思い起こせば中学・高校に進学した際も、心のどこかで「自分で起業してみたい」という野望があったので、“お金持ちの社長になる”という夢は僕の潜在意識の中で常に眠っていたのかもしれません。

またこの卒業アルバムを手にとったのが、ちょうど僕自身、起業を考えていたタイミングだったこともあり、“子供時代の僕”に今の自分の夢を後押しされたような不思議な感覚もありました。

ルリエ エイトワン

■現在の仕事/活動を始めたきっかけは?

「ルリエ エイトワン」を始めるきっかけとなったのは、大学時代から楽しんでいたバックパッカーを通して、色んな国の方達が、京都という街、そしてそれを象徴する<着物>に魅了されていたことに気づいたことです。

僕自身、生まれも育ちも京都なのですが、大人になって海外に出るまで、逆に京都という都市が、ここまで世界的に有名であることを知らなかったんですよね。そして世界中で出会う方々が、口を揃えて京都のイメージを伝えてきたのは「着物」というキーワード。しかし、実際に僕が日本に帰国してから調べた京都の着物産業というのは、本当に悲惨な状況で、海外の方々が想像しているイメージと、リアルな産業の現状のギャップに違和感を感じてしまったのです。

そして当時、“起業家”という夢を持ちながらも、明確な進路も定まらず一旦会社勤めを選んでいた僕は、この使われなくなった<着物>というジャンルに、ある種ビジネスとしての希望を感じていました。

では一体どんなプロダクトを作るのか?とリサーチを重ねていたときに、閃いたのが<靴>というアイディア。当時から“着物や帯”を使用したプロダクトは沢山ありましたが、靴の市場がまだ未開拓なジャンルだったこともあり、自分にとってはチャンスだと感じたのです。

そして何より<靴>って、世界共通で“誰でも気軽に身につけらるモノ”ですよね。以前、海外観光客の方が「お土産用に」と、どさっと古着の着物を購入されている光景を目にしたことがあるのですが、咄嗟に用途を伺ったら「着物を部屋に飾ったらクールでしょ」なんて彼女は話されていて。せっかく海外から着物に関心を持っていただいているのに、実際にそれを着ることは、やはりハードルが高いものなのだなと感じましたし、それが<靴>だったなら、京都の旅の思い出や日本の伝統文化を、もっと身近で楽しむことができるかもしれないな、と。

「ルリエ エイトワン」は、そんな僕の想いや経験がカタチとなって生まれたブランドです。

※もとよりファッション好きだったという田尻だが、ブランド立ち上げまでのデザイン経験は実は皆無。靴職人たちと連携しながら、女性のニーズを捉えたタイムレスなシューズを生み出し続けている。

■仕事/活動を通して、最も嬉しいと感じる瞬間は?

「ルリエ エイトワン」と出会ったお客様から、ポジティブな意見や喜びのコメントをいただけたとき。最近では、“去年、手に入れられなかったから”と、一年越しで靴を購入されるお客様もいらっしゃったりして。トレンドの移り変わりが激しいファッション界の中で、年度をまたいでも欲しい!と思っていただけること、そしてそんなタイムレスなモノ作りができていると実感できることほど、嬉しいと感じる瞬間はありません。

それからブランドを以前から知っている方たちから、コラボレーションをはじめとするお仕事のお話をいただけるのも、非常にありがたく感じています。「ルリエ エイトワン」のお客様の中には、単独で初めてディレクションするギャラリーに、弊社を選んでくださった方もいらっしゃって、その方の大切な思い出の中に、自分のブランドが携われるなんて光栄ですよね。

■仕事/活動を通して、この世界にもたらしたいことはなんですか?

最終的なゴールは、<着物>という日本の伝統的なプロダクトを、カタチを変えずに、そのまま着ていただく人を増やしていくこと。そのために僕は、まずは着物や帯を使用した「ルリエ エイトワン」というプロダクトを通して、日常のなかで着物と触れる機会を増やしていきたいのです。

現代の日本では、着物に袖を通す習慣は失われてしまったけれど、それがイコール“無関心”というわけでは決してないんですよね。むしろ僕は、20代の若い女性たちの方が着物に興味があることを肌で感じています。“「ルリエ エイトワン」の靴を履いていたら、着物や帯がいつもより身近に感じてきたから、今度の友人の結婚式は着物で行ってみようかな。”なんて、着物を纏うきっかけとなれば非常に嬉しいです。

そしてアップサイクルな取り組みからの視点ですと、まだまだ余っているモノが消化しきれていないという現状があるので、「ルリエ エイトワン」を通して、まずは無駄をなくしていくあり方をもっともっと発信すること。過剰なモノがなくなったときに初めて、オリジナルの生地などを使用した、新しいプロダクトも生み出してみたいなとも思っています。

■仕事/活動に関するインスピレーションは、普段どのように得ていますか?
旅ですね!先ほど「ルリエ エイトワン」誕生のきっかけも、バックパッカーの旅が影響していると述べましたが、やはり新しい景色であったり、空気であったり、そこで出会った人たちから得たモノって、普段は感じることのできない沢山の刺激やインスピレーションを僕に与えてくれます。そして旅は、仕事に限らず、人生という大きなスケールでも僕が大切にしていることです。自分から知らない土地に出向いて、いろんな人とコミュニケーションをとることは、僕自身をあらゆる側面から見つめ直す大切な時間でもあるのです。

■あなたの人生の中で【お金】とはどんな価値を持ちますか?
お金とは、<選択肢を増やす手段>。

僕は起業する際に、“お金持ちの社長”を思い描いていたことや、男性的なビジネス思想もあり、大金を稼ごう!と意気込んでいた時期もあったほどなのですが、実際にスタートしたあとは、良くも悪くもその概念は打ち砕かれました。何故なら、まず僕がしなければいけなかったことは、本当に求められているプロダクトを制作すること。その上では、“利益”なんていう電卓をまずは一切忘れなければならなかったからです。

事実、当初の「ルリエ エイトワン」の経営は非常に厳しく、初めて関西の百貨店でポップアップを開催した時なんて、3日経っても靴が一足も売れない状況だったのですが、それでも僕はこのブランドを利益関係なしに、存続させる価値を見出していました。では今後の活動資金はどうするか?と考えた際に、<他>で稼げばいいんだと、ふと思いついて。昼間は定食屋のホール、夜は祇園のバーなんかでアルバイトを掛け持ちしながら、何とかやりくりをしていたんですよね。今まであまり表に出したことない話ですけど。

つまり<お金>って、夢や目的を叶えるためのツールに過ぎないと思うのです。僕のようにあらゆる手段で稼ぐのも良いし、“借りる”という方法でも良いと思う。そのお金を生かしてからこそ、人生はもっと生き生きしてくる。逆に大金があるという状態だけでは、人間って幸せにはなれないとも思うのです。

そして今創業当時を振り返ると、利益に惑わされず“本当に良いモノを届けたい”というマインドが強かったからこそ、ある意味このブランドも少しずつ伸びてくれたのかもしれない。“お金は後からついてくる”なんて話をよく聞きますが、それが決して綺麗事ではないことも、実際に「ルリエ エイトワン」の立ち上げで学ばせていただいたことです。

工房での制作風景

■あなたが考える【サステナブル】の定義を教えてください。

3年前と比較してみても、「サステイナブル」という言葉が浸透してきた現代って、エコに対する関心が上がったようにみえますが、同時に沢山の矛盾を抱えているとも感じています。

例えばペットボトルを無くしましょう!と謳っているけれど、世の中にはテイクアウト用サービスが発展して、プラスティック容器のゴミが激増してしまったり。実際に今あるプラスティック製品が全てなくなってしまったら、不便になることだって沢山あると思います。

だからこそ僕たちは、自分の生活の中で、できる範囲の“より良いアクション”を起こしていくことこそが、本当のサステイナブルなのかなと。<買う・買わない>という究極の2択ではなく、「生産背景の中で、少しでもエコなモノを購入する」「先月プラスティックを10個使ってしまったら、今月は8個に減らす」といったように、少しでも意識的なマインドで行動し続けることが、何よりも大切なのかなって。

もちろん「ルリエ エイトワン」でも、できることは徹底的にやりたいと考えているので、今後は“捨てるものがないブランド”と謳えるほど、ハイレベルな生産背景に引き上げていきたいと考えています。

■これからの地球に、もっと必要だと思うことはなんですか?

思いやりや愛を持って、周りに接すること。それは人間だけでなく、環境に対しても同じだと思っています。例えば訪れた場所には、“来た時よりも綺麗な状態に”位のマインドって、あらゆるシーンでもっともっと大切にするべき姿勢なのではないでしょうか。そういった一人一人の愛に溢れる行動の連鎖が、調和をもたらしてくれると信じています。

<We want to know more about you…!>

■ご自身の一番好きなところを教えてください。

<行動力>と<負けん気>。

実は僕自身、子供の頃から何をやっても続かないようなタイプで、それを克服できずにいる自分がすごくコンプレックスでしたし、僕の姿をみて悩んでいる家族にも申し訳ないという気持ちがすごく強かったんです。

どこかで自分が変わらなければいけない、と感じている中で、その大きなきっかけを与えてくれたのも「起業」でした。そこで初めて、僕は自分が思っている以上に<行動力>があることに気づけましたし、そのお陰で新たな自分の可能性を知ることもできました。勇気を振り絞ってアクションしたからこそ気づけた事でもあるので、これからも自分のストロングポイントとして伸ばしていきたいです。

そして<負けん気>に関しては、他者ではなく、“自分自身”としっかり向き合うという意味です。28歳を迎えてようやく、戦うべきは外ではなく、内なる自分だと気づいたというか。そのため、僕の理想を叶えるために、少しずつ自分のレベルを上げていくことは常に意識しています。

■失敗から学んだ一番の教訓は何ですか。

「百聞は一見にしかず。」
どれ程悪い印象のある話でも、一度自分の目で見て確かめることを、様々な失敗から学びました。実際に自分の足で出向いてみたら、想像以上に良い経験をもらえた、なんていう話は沢山ありますよね。経験をしないことが一番もったいないことだと思いますし、沢山の情報が行き交うこれからの時代だからこそ、“自分で確かめる”ということを大切にしています。

■地球で過ごす時間が残り1年だとしたら、何をしますか?

究極の選択ですけど、まずは仕事をしないといけないかな…(笑)
「ルリエ エイトワン」のプロダクトを待ってくださっているお客様が沢山いらっしゃるので、最初にその方たちに必ず商品をお届けする。それが終わったら、パーッと旅にでますね!それも僕がまだ足を踏み入れた事がないような未知の世界。例えばアマゾンのような、壮大な自然に触れられる場所がいいですね。

■次世代の子どもたちに伝えたいメッセージは?

一番伝えたいのは、自分の行動一つで、未来の世界なんていくらでも変えられるということ。そしてサラリーマンも経験した僕だからこそ言えるのは、“誰か”が自分の夢を叶えてくれることはないということです。

もし今夢がないという人は、夢を見つけるために動かなければならないし、今夢がある人は、最短距離で達成する行動を移さなければならない。結論、自分のためにどれだけアクションを起こせるかに、未来はかかっていると思うのです。周りを見ていても、現代を生きる大人たちって、やはり保守的になってしまう傾向が強いのかなと思うのですが、それを差し置いて、一歩勇気をふり絞って前に出てみる。その行動が自分の自信にも繋がるので、リスクを恐れず挑戦してみていただきたいです。

そして今僕は、こんなアドバイスをお伝えする立場となっていますが、実は小・中学校まで遡ると、学校に行けず思い悩んでいたこともあったのです。今でも同じ境遇の子供たちのことを考えると、胸がギュッと苦しくなってしまのですが、そんな少年期の不安や絶望を経験した僕だからこそ、“未来は明るく変えられる”という姿を、自分の活動を通して体現していきたい。それが僕の人生における大きな目標でもあり、原動力にもなっています。

余談ですが、そんな繋がりもあって、最近ではアート系の学校でも、講義もさせていただいています。デザインの勉強なしに、アパレルブランドを立ち上げた僕のような人間だっているのだから、今就職に悩んでいる人もまずは自分の可能性を信じてみてほしい。これからも何か“動く”きっかけを与えることが出来たら嬉しいです。