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「アップサイクルジャパン」西村正行にインタビュー、“もったいない”を合言葉に持続可能な未来へ

<基本情報>
氏名:西村正行(Masayuki Nishimura)
活動拠点:湘南
仕事/活動:アップサイクルジャパン代表、ピースクラフト代表、もったいない食堂オーナー、琉球古民家貸別荘オーナー
関連インスタグラム:@peace.craft@upcycle.jp ほか
関連HP:https://www.upcycle.co.jp/

■More about 西村正行
大工や住宅の営業・設計を経て、2013年より湘南・茅ヶ崎を拠点に、廃材を使用したアップサイクル(※)ブランド「ピースクラフト(PEACE CRAFT)」をスタート。2018年には、アップサイクリストが集って新たな価値を発信する企業「アップサイクルジャパン(UPCYCLE JAPAN)」を設立し、全国規模へと事業を拡大する。その他にも地域財産をリノベーションした琉球古民家貸別荘運営や、農家の余剰野菜・規格外野菜を使用した週末限定の食堂「もったいない食堂」の運営など、幅広いジャンルで活動。また私生活では、葉山の古民家で“プチ自給自足”な暮らしにもチャレンジしている。

※アップサイクル…不要なものにアイディアや技術などの付加価値を加え、価値の高いものを生み出すこと。

西村が手掛ける琉球古民家別荘「美ら民家」

■子供の頃の夢を教えてください。

住宅の設計士。もちろん子供の頃なので、野球選手やサッカー選手なんかに憧れた時期はあったけれど、ずっと心の中にあったのは、今の仕事にも通じる「設計士」という職業でした。

きっかけになったのは、父の友達で設計士の方がいて、よくその職場に遊びに行かせてもらっていたこと。「これはどうやるの〜?!」なんて仕事の邪魔をしながらも、設計士という職業を間近でいつも眺めていて、子供ながらに“かっこいい”って凄く憧れていたんですよね。

アップサイクルジャパンのメンバーと

■現在の仕事/活動を始めたきっかけは?

僕が始めた活動は、全て「もったいない」という意識からスタートしています。よく地球環境のために活動している人間だと認識されることが多いのですが、実際は偶然“地球に良かった”というだけで、特別に地球について意識したことはなかった。ただ「もったいないから、再利用しよう」という純粋な感覚を、仕事に取り入れることから始まって、結果として活動の中から地球についての学びも深めたという順番ですね。

もしかすると、聞く方によっては「もったいない」という言葉自体が、少しケチくさい印象があるかもしれないですけど、僕にとっては自分のアイデンティティの一部のような大切なもの。「もったいない」と思ったから、捨てられる木を貰ってモノ作りをする契機となりましたし、その活動から派生して、現在の様々な仕事や仲間と出会うことが出来たのです。

とりわけ僕が2018年にスタートした「アップサイクルジャパン」が、良い例ですね。創業前まで、僕は廃材を使用してモノ作りをしていたのですが、“類は友を呼ぶ”と呼ぶべきか、気付けば自分の周りにも「もったいない」という感覚を軸にした、モノ作りの職人たちが集まっていたんですよ。処分されてしまう食材で料理をしている人や、捨てられる布を再利用して洋服を作っている人、ダンボールで文房具を作っている人…。こういった人たちを集めてイベントをしたら、ゴミも減らせるし、内容も絶対に面白いと思い立ち、1日限りのポップアップストアを開催したんです。反響も凄く良かったですし、これは1日といわず、もっと継続すべきだと感じて、ポップアップストアから名前を引き継いだ「アップサイクルジャパン」が正式な事業としてスタートを切りました。

またあの頃は、まだ「SDGs」や「アップサイクル」という言葉も全然浸透していない世の中だったので、ある種このジャンルに対して、大きなビジネスチャンスも感じていたんですよね。僕たちの活動は、SDGsのカテゴリのひとつ「つくる責任」にビシッと収まっていますし、まだ日本では珍しかったユニークな事業でしたから、挑戦のしがいもあるじゃないですか。事実、こうして時代に少しずつフィットしてきた今では、事業も全国規模に拡大しましたし、メディアに注目される機会も格段に増えました。それでもやはり活動の根幹となるものは、あの頃と全く変わっていない「もったいない」という意識。現在は持続可能な未来を見据えながらも、今日も“もったいない”何かを新しいプロダクトやサービスへと蘇らせています。

廃材を使用した、TOKYO2020オリンピック・パラリンピック サンクスイベントの舞台

■仕事/活動を通して、最も嬉しいと感じる瞬間は?

僕はモノ作りをする人間なので、やはり自分が表現したものに対して、ポジティブな感想をいただけることが最大の喜びです。その中でも特に嬉しいのは、廃材で出来たものに対して、人が驚く姿を見れる瞬間かもしれないですね。今でこそ、そういったアップサイクルなプロダクトも世の中に増えてきたけれど、僕が始めた10年前なんて全然流通していなかったから、“これが本当にゴミから生まれたの?!かっこいいね!”と、目を丸くして驚かれる方も沢山いらっしゃって。そういった新しい感動や驚きを与えられることが、モノ作りの醍醐味だと改めて感じましたし、これらからもさらに進化したアイディアを生み出していきたいなと思っています。

■仕事/活動に関するインスピレーションは、普段どのように得ていますか?

自然の中から。自然に身を置いた時に感じるバランス感覚や、空間の心地よさに勝るものはないと感じていて、山や川、海といった場所で過ごす時間から、日々沢山のインスピレーションをもらっています。現在の住まいである葉山を選んだ理由も、大自然に囲まれて暮らしたかったから。また僕は日本の古い建築も大好きなので、夢の古民家暮らしも実現させました。

■現在の仕事/活動を通して、この世界にもたらしたいことは?

僕が手がけている仕事って、ある意味“ゴミ”がなければできないことなのですが、自分の仕事が無くなるまで、地球からゴミをなくすことが理想のカタチなのだと思っています。

もちろん自分の仕事が必要とされなくなったら寂しい気持ちもありますが、今の僕たちは”ゴミを捨てる”行為をやめることを最優先しなければならない。そしてそれを皆に発信し続けることも、僕の使命のようにも感じているのです。

■あなたの人生の中で、「お金」とはどんな価値を持ちますか?

日常の中で“ツール”であることに変わりはないけれど、人生の中で優先度を間違えてはいけないものであるとも考えています。

つまり僕たちが生きる本質は、ご飯を食べることや、家族との幸せな時間を得ることであり、“お金のため”ではないはず。けれど今の世の中は、何をするにも“お金”がトップに君臨しているから、どんどん歪んだ貨幣システムが生まれているのではないでしょうか。それだけお金は人間を狂わせてしまう性質を持ったものであるとも思うので、<物々交換>のように、その人自身の価値や、その人が生み出すものへの価値が“お金“ではない別の形で評価される概念も面白いな、なんて考えています。

 ■あなたが考える【サステナブル】の定義を教えてください。

“価値を循環させていくこと。”そしてそれは持続することが大切なので、ボランティア活動と履き違えてはいけないとも考えています。

具体例として、僕が手がける「もったいない食堂」を挙げましょう。「もったいない食堂」は、農家の市場では売れない規格外の野菜だったり、余剰な野菜を買い取ってお弁当を販売している事業なのですが、これは僕が農家さんに野菜の対価を、さらにお客様がお弁当に対して代金を支払ってくださるから、お金という<価値>が循環して成立していることなんですよね。

けれど仮に“これは素晴らしい慈善活動だ”といって、一連の流れに一切お金(価値)が回っていない状態だったとしたら、どこかでこの活動には限界がきてしまう。何故ならモノだけが生産者から消費者の間をグルグルと回っているだけで、作り手が“犠牲”となって対価を何もいただいていない訳だから、継続するには無理があるんですよ。

この状態は<ボランティア活動>全般に言えることで、──決して否定する訳ではないのですが、ビーチクリーンだって、参加者が生きるための仕事を他に持っていなければ、継続することが難しいという側面もあると思うのです。凄く素晴らしい活動ですけどね。つまりサステナブルなあり方というのは、そこに関わる人全てを含めて持続可能な状態であり、さらにその上で価値が循環しているという構造を作り出すことが、理想的なあり方なのではないかなと考えています。

■これからの地球に、もっと必要だと思うことは何ですか?

「もったいない」という意識かな。その上で捨てるんだったら買わない、残すんだったら食べないっていう選択を、もっと意識的にするべきフェーズに入っていると思います。いずれにせよ、今の世の中はモノが溢れすぎているので、地球上の限られた資源を大切にするというマインドは、人間として大切にしていかなければいけないですよね。

<We want to know more about you…!>

■ご自身の一番好きなところを教えてください。

ポジティブなところですかね。あらゆることに関して、滅多に落ち込むことがないのです。ただ思い返してみると、昔からずっとそんなにポジティブだったわけでもなくて、特に高校時代はよく悩んだり、自分の殻のなかに塞ぎ込んでしまう時期もあったと思います。けれど18歳で社会に出てから、その落ち込んでいる時間やエネルギーがどこか“無意味”であることに気づいた瞬間があって。究極どんなことがあったとしても、自分が死ぬ訳じゃないという、非常に楽観的な考えに切り替わっていったんですよね。 

もちろん僕もミスをすることはありますし、時には自分の関係ないところで起きた問題が、自分の仕事に響くなんてことはよくある話だと思うのですが、そういう場合でも僕は相手に対して怒ったりしたくない。もちろん僕も人間なので“イラっ”と来てしまうことはあるけれど、そこで費やす時間やエネルギーがもったいないじゃないですか。だから起きてしてしまったことは、全部ひっくるめて流れに抗わない。ポジティブに捉えて過ごしていた方が、よりスムーズに“波”に乗れることを、このマインドを持ってから気づきました。

■自分自身のために大切にしてる習慣は?

“ぼーっとする”時間を作ること。日々忙しなく何かに追われているタイプなので、究極に何もしない休息タイムを一日の間に、少しでも作ることを心がけています。ただどこかを眺めているだけでも良いし、お風呂の中でただお湯見つめるだけでも良い。身体はもちろん、脳を休める時間も人間には必要不可欠ですから、パンクする前にしっかり自分時間を取ることって大切ですよね。

■失敗から学んだ一番の教訓は何ですか?

常に失敗からでしか、僕は成長できていないので、一番の教訓を決めるのは難しいですね。ただ総じて共通していることは、失敗はネガティブな要因ではなく、全部ポジティブなものということです。僕のモノづくりに関してしても、新しいプロジェクトにしても、スタッフとの関係性にしても、全部“失敗の積み重ね”があったからこそ、より良い方向へと改善していくことができたもの。だから僕の人生の中で、失敗とは“なくてはならないもの”だとも捉えています。

■あなたを動かす一番の原動力は?

「もったいない」というマインド。“もったいない”モノで、価値を見いだせると踏んだ瞬間の原動力が、一番僕を突き動かします。現在もこの軸で、色んなプロジェクトを構想中なのでお楽しみに!

■地球にいる時間が残り1年だったとしたら何をしたいですか?

山に住み、畑で自分が食べる分だけは確保して、自然の中で暮らします。今続けている活動は、もう全部やめる!(笑) スタッフの皆も好きなことをしてくれ!もしくは一緒にメシを作って楽しもう!

■次世代の子供たちに伝えたいメッセージを教えてください。

自分の心が感じるままに、動いてほしい。最近の若い方の発想は本当に素晴らしいので、その直感を信じて迷うことなく、突き進んでください!