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野草民泊「野だて」野田和規にインタビュー、足元に広がる“宇宙”に魅了されて

<基本情報>
氏名:野田和規(Kazuki Noda)
活動拠点:北海道・白老町
仕事/活動:自然ガイド、野草研究家、野草民泊「野だて」運営
関連インスタグラム:@yasou_king_ode@nodate_yasou
関連HP:https://nodateyasou.life/

More about 野田和規
北海道・白老町にて2020年より移住し、地域おこしの一環として自然ガイドをスタート。野草と自然の神秘を愛し、森で採取した野草をラボ化した野草民泊「野だて」の運営を手掛ける。地元の笹の葉を使用したバスソルトなど、天然由来のプロダクトの開発も手がける。

■子供の頃の夢を教えてください

薬剤師になりたかったです。これは小学5年生くらいの夢だったと思うのですが、当時はポケモンとかモンスターハンターにハマっていて、ゲームに出てきた「薬草」なんてワードから、まずは惹かれたのだと思います。もともと薬とか人体に興味もありましたし、いつか薬の調合をしてみたいなと思っていました。

■現在の仕事/活動を始めたきっかけは?

経緯を話すと長いですが、“地球の神秘に対する好奇心”が、常に僕の活動の根本にあります。10代の頃は、とりわけ地球上の生命の源である<水>に強く惹かれて、大学進学時には6年間がっつりと水を学べる農学部を選びました。その頃はちょうど“国際協力”に注目が集まっていた時期でしたし、近い将来水をめぐって戦争が起きるとも言われていたので、水を勉強することで、その神秘を解明するだけでなく、誰かの役に立つことができるかもしれないとも考えていたのです。

けれど実際大学での講義は、物理や化学を含む理論的な学問が多く、僕が思い描いていた理想とは“ズレ”を感じたので、1年足らずで退学することを決めました。それと同時に、僕は地球上の神秘は机上の学習よりも、自分の目で見て触れて体験することの大切さに気づき、とにかく興味のあることを見つけたら、その場所を訪れ、人と対話し、本で理解を深めるというスタイルを固めていったんですよね。

その後は農業・気象・海洋・土なんかに興味を抱いた時期もありましたし、ある時には“香り”に魅せられて、香りの本場・フランスまで学びに行ったこともありました。大切なのは、好奇心が芽生えた時にすぐに行動すること。好奇心って一ヶ月も続かないから、僕の場合その時に消費しないと得るものが全くないんですよ。

「野だて」内にある“野草ラボ”
利用者はお茶にして飲むことも可能。

そういう生活を4年ぐらいしていたら、現在の活動に繋がる、北海道の地域おこし協力隊の仕事のお話をいただいたんです。ざっくりいうと、北海道の白老町というフィールドの中で起業する機会をもらえるプロジェクトなのですが、森林や地形のガイドなら僕自身すごく好きですし、自然のリサーチもできることから引き受けることにしました。そこから僕が白老の森で珍しい野草を採取していたら、いつの間にか自宅が植物だらけのラボのような空間になってしまって。もしかしたら都市に住んでいる人にとっては、面白い場所かもしれないと思い立ち、仲間のサポートを得ながら、部屋の一部を宿として提供する「野だて」もスタートすることになったのです。

■仕事/活動に関するインスピレーションは、普段どのように得ていますか?

日常にあるもの全て。僕は好奇心が強いので、目に入るもの全てに、まずは疑問を持って、その中でも特に興味のあるものを、どんどん掘り下げているんですよね。

また自然の中だけにも特にこだわっていなくて、僕にとっては都会も“新しい森”の一つ。そのため街中にいても常にアンテナは全開ですし、コンクリートって何でできているんだっけ?ガラスってそもそもなんだっけ?といったように、何かを絶えず観察しているんですよ。

ちなみに最近の僕のブームは、キノコ!白老町の森には沢山のキノコが生息していて、本当に奥が深いんですよ。新しいキノコに出会うだけで、足元の宇宙が広がるような感覚を覚えるほど、どっぷりとハマっています。

■現在の仕事/活動を通して、この世界にもたらしたいことは?

きっと誰の心にもある“センスオブワンダー”を取り戻す機会を作りたいです。この世界は結局<感じ方>が全てだと考えていて、同じ風をみていても、追い風/向かい風のように、見る人によって全然違った景色が映っていることってあるでしょう?つまり解釈や認識の仕方次第で世界の捉え方はガラリと変化するから、僕の活動を通して出会った人たちにも、そういった普段とは違う感性に気づく“発見”の時間を与えることができたらと。

例えば白老町の自然ガイドに参加した後、東京にも同じ香りの木があった!とか、足元にこんな可愛い雑草が生えていた!など、どんな発見だっていい。普段は“つまらない”と思っていた風景のなかで、少しでも地球や自然の神秘を一つでも見出すことができたら、それって凄く素敵なことだと考えています。

■あなたの人生の中で、「お金」とはどんな価値を持ちますか?

お金は人によって必要な量が違うと思っていて、言い換えるならエネルギーのようなものだと捉えています。

これは自然界の共通価値である“カロリー”を例にすると、分かり易いと思うのですが、例えばクジラもネズミも生きるために必ずカロリーを摂取して、身体に熱を循環させていますよね。けれどもちろんこの2種類の生き物の大きさは全く異なるので、クジラは沢山カロリーを摂取する必要があるし、逆にネズミは少量をコンスタントに摂れば全く問題ないのです。

だから人間でも、その人のもともとの性質だったり、やりたいことの規模によって、必要なお金の量が変わってくるのは当たり前で。僕は今さほど大金を必要とはしていない時期ですが、いずれ海外規模で叶えたい夢があるので、その際は沢山エネルギーを循環させて、十分な量のお金を生み出すのだと思います。

■あなたが考える【サステナブル】の定義を教えてください。

「時代に合わせて変化していくこと」。

46億年の歴史を持つ地球って、そもそも非常にダイナミックなリズムで動いてて、4万年前は全球凍結していたり、そこからとてつもなく暑くなったりという、非常に寒暖差の激しい周期が繰り返されてきたんですよ。それをマクロな視点で見た時に、現代のサステナブルが意味する“持続可能性”について考えると、──少なくとも生物の動きの中では、時代に合わせて変化をしていくことが、最も近い意味なのかなって。つまり、その時代の環境に適応し変化した種だけが存続できるし、逆に適応できなかったものはそこで終わり。実際この長い地球の歴史の中では、変化できずに絶滅してしまった生物って山ほどいますよね。

そして現代叫ばれている<サステナブル>について考える際に、人間だけが生命を絶滅させる悪だと捉えるのは、少し極端かなとも考えています。生物の歴史の中でも、大昔にイネ科が初めて現れたとき、イネ科に含まれる硬いケイ素が原因で当時の草食動物の大半が絶滅したと言われているんですけど、現代では食の中で欠かせない存在となっています。だからきっと人間の歴史も同じように、善の時代もあれば、悪の時代もある。今は確かに大変な時代かもしれないけれど、一つの物差しで図ることなく、マクロな視点で考えることが、今の時代にこそ必要なことなのかもしれません。

■これからの地球に、もっと必要だと思うことは何ですか?

地球への理解を深めること。それは言い換えるなら、自然界の法則について理解を深めること、とも言えると思います。

具体的には、人間が地球や動物のために良かれと思って行う活動ってあると思うのですが、それって実はきちんと“法則”に従っていないと、生態系の崩壊にも繋がってしまうことってあるんですよね。

例えば先日僕が目にしたものの中で、熊の食料確保のために、全国からドングリを集めるというプロジェクトがあったのですが、それってすごく危険だなって感じたのです。何故ならドングリは各地によって種類が全く異なりますし、熊は味を正確に覚えるので、もし仮にドングリ目当てで熊が都市の方になんて移動してしまったら、それは人間にも大変な被害が出てしまう。そして森の中からもドングリがなくなるわけですから、そこで暮らしている小動物の食物連鎖もきっと崩れてしまいますよね。

もちろんその活動自体が“善”の気持ちから始まっていることは重々承知なのですが、そういった自然の原理に対して根本的な理解がないと、結局本末転倒な状態を引き起こしかねない。だからまずは僕らが地球への理解を深めた上で、最善の行動をとることが今できるベストなのだと感じています。

<We want to know more about you…!>

■ご自身の一番好きなところを教えてください。

朝型人間なところ。僕は植物が大好きなので、もし夜型人間だったら自然の中で植物を観察できる時間が半分になってしまっていたから、朝型の体質に生まれて本当によかった。遺伝子に感謝です(笑)

■自分自身のために大切にしてる習慣は?

スマートフォンを持たない時間を設けること。少なくとも大好きな森に出かけるときは、スマートフォンなしで、その時間に集中する習慣を大切にしています。

そもそもの大きなきっかけとなったのは、ベトナムを旅していた時に、ひょんなことから、沢山の教訓が含まれている日本昔話の奥深さに気づいたこと。そしてもし仮に「桃太郎」の世界でスマートフォンがあったら、きっと川から桃が流れてきても、おばあさんは写真を撮ることに夢中で、あの話って生まれることはなかったかもしれないって、ふと考えてしまったんですよ(笑)。僕はスマートフォンのせいで、“自分の人生の桃”を見落とすのは嫌だなって思ったので、手放そうと決意し。そのまま自分の足でメコン川へと出向いた僕は、ひと思いにスマートフォンを捨てたあと、1年間“スマホなし生活”を送りました。

その期間って不思議と脳みそが凄くクリアになった感覚があって、脳が疲れてないせいか大量の書物を読むことができましたし、出会いの質まで明らかに変わった感覚がありました。もちろんスマートフォンがないことで不便なことはあったけれど、渋谷で人と待ち合わせをしたときなんかは、隣の知らない人に「ちょっと、すみません…!」なんてお願いしたりして、なんとかなることも学びました(笑)

もちろん今では仕事の兼ね合いもありスマートフォンを使用していますが、これらの経験から最小限に。小さな画面よりも、人生の中で起きる一瞬一瞬の出来事に集中することの方が、僕にとっては何倍も楽しいのです。

■失敗から学んだ一番の教訓は何ですか?

失敗だと感じたことが、実はなくて…。おそらく他の人から見れば“失敗”だと思う状況の中でも、<新しい発見>の方が僕の中では上回ってしまって、それはそれで楽しめてしまうんです(笑)。

例えば、数年前に僕はお金が尽きて東京で野宿をしていた時期があったのですが、その期間に学んだ一番の気づきは、食べ物や寝床といった<熱源の確保>さえすれば、人間は生きていけるということでした。月々15万円かかると思っていたお金はさほど必要なく、命を繋ぐ本質的な学びを得られたことは、なかなか得難い貴重な体験でしたし、ワイルドな生活もそれなりに楽しむことができました。

■あなたを動かす一番の原動力は?

好奇心!

■地球にいる時間が残り1年だったとしたら何をしたいですか?

今と同じフィールドガイド。僕は常に自分の好奇心とマッチした生活を選んでいるので、残り1年だったとしても、今と変わらない生活を送ると選びます。

■次世代の子供たちに伝えたいメッセージを教えてください。

この世界はつまらない人にとってはつまらないものだし、面白い人にとっては面白いものだと思うので、どうせなら面白い人になったほうが楽しいはず。そのためには、“日々の小さな感動を大切に生きること”が、僕からできるアドバイスです。